特許出願・特許申請の書類

特許出願書類(特許申請書類)として必要とされるのはどのような書類なのか、また特許出願書類にはそれぞれ役割があって役割を理解した上で作成するポイント、注意点などについて説明しています。


このページの目次です。

特許出願書類とは?

特許出願書類とは、特許出願する際に特許庁に提出する書類のことで、具体的には、主に、願書(特許願)、明細書、特許請求の範囲、必要な図面、要約書のことをいいます。

ここでは簡単に特許出願の各書類について説明します。

願書(特許願)

願書(特許願)は、特許出願しますんでよろしくお願いします的な書類で、発明者の氏名,住所(居所)、出願人の氏名(名称),住所(居所)などを記載します。

他の明細書,特許請求の範囲などの書類はこの願書に添付するという形をとり、願書は特許出願書類の表紙としての役割を果たします。

発明者の氏名は戸籍上に記載された本名を記載し、住所は住民票のとおりに記載します。
会社が出願する場合で、その従業員などが発明者である場合には、発明者の住所ではなく、例えば「…株式会社内」と会社を居所として記載することがほとんどです。

出願人が法人である場合は、登記簿などに登記されている名称,住所を記載します。弁理士による代理手続でない場合には代表者の氏名も記載します。
出願人が個人(個人事業主)である場合には、戸籍上に記載された本名、住民票の住所を記載します。
なお、後述する識別番号を記載した場合には住所を省略できます。

発明者の氏名,住所、個人の出願人(特許権者)の氏名,住所が、出願日から1年6ヶ月後に発行される公開特許公報や、特許権の設定登録があった後に発行される特許公報に掲載されてしまいインターネットを通じてだれでもチェックできてしまうために、個人情報保護の観点から、住所については公報に概略化して掲載すべきであると、情報普及活用小委員会報告書「特許情報のさらなる活用に向けて」(平成28年5月)にて報告されました。
しかし、報告から2年以上経った現在(平成30年7月)でも、法改正の予定などはなく何の進展もないとのことです。

なお、「特許出願の願書作成時の留意点」(産業財産権の出願手続の留意点)(特許庁、PDF)では、発明者の欄、特許出願人の欄などを記載するにあたって注意すべき点が説明されております。
発明者ご自身で願書を作成される場合にはお読みになることをおすすめします。

様式については願書の作成方法(特許庁、PDF)をご参照ください。

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特許請求の範囲

特許請求の範囲には、特許権を請求したい内容、他人に実施させたくない内容を記載します。具体的には、特許権を請求したい発明を特定するために必要と認める事項(発明特定事項)を過不足なく記載します。

この特許請求の範囲の記載が特許発明の権利範囲を定める基準になります。
また、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するのに後述する明細書の記載および図面が参酌されます。特許請求の範囲は明細書とともに重要な特許出願書類です。

権利範囲を定める基準になることなどから、明確、かつ、簡潔に記載することが求められます。
同じ意味で使う用語は、原則として同じ表現を用いないと不明確になってしまいます。
また、用語は不明確にならない程度に上位概念で表現したほうが広い権利になります。

特許請求の範囲は、発明を特定する事項同士の間で整合性がとれるように、技術的な関連性が明確になるように記載する必要があります。

特許請求の範囲に詳しく発明特定事項を記載すればするほど権利範囲が広がるように思えますが、基本的にはその逆でなるべく少ない簡潔な発明特定事項でまとめたほうがより広い権利になります。
ただ、なるべく少ない簡潔な発明特定事項でまとめようとすればするほど、特許は認められにくくなる傾向があります。

特許請求の範囲は、1通りの表現のみではなく、複数の項(請求項)を設けていろいろな視点から発明をとらえて表現することが可能です。
例えば、上位概念の請求項とは別に引用する形で下位概念の請求項を段階的に作成していくことや、「物の生産方法」が「物」の生産に適している場合は「物」についての請求項と「物の生産方法」についての請求項とをいっしょに記載することが可能です。

複数の請求項を用いて発明をいろいろな視点から表現することにより、なるべく漏れのない権利を取得することが可能になり、また特許が認められやすくなります。
2022年の全特許出願の出願時の平均請求項数12.3個です。
「平均請求項数の推移」(特許庁、PDF)

ただ、自由にさまざまな視点から発明をとらえて請求項を作成できるわけではなく、発明の単一性という要件を満たさないと、一つの出願内にすべての請求項を記載することができなくなります。

この特許請求の範囲の作成が、特許出願書類作成に慣れていない方にとってはいちばん難しいと思います。

様式については特許請求の範囲の作成方法(特許庁、PDF)をご参照ください。

マルチマルチクレームの制限

特許請求の範囲は、複数の請求項を記載する場合、【請求項1】,【請求項2】,【請求項3】のように連続番号を付けて記載します。

既に記載した請求項を引用する形式の請求項がよく用いられ、例えば、
「【請求項4】……ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の半導体装置。」
のように、既に記載した複数の請求項の中からどれか1つ選べる形式で引用する請求項にすることも可能です。
このような請求項(クレーム)をマルチクレームといいます。

令和4年(2022年)4月1日以降の特許出願から、よくばってマルチクレームに重ねてマルチしちゃうマルチマルチクレームは認められなくなり、拒絶理由となります。
実用新案登録出願についても基礎的要件を満たしていないとして補正命令が出されます。

例えば、上述の「【請求項4】……ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の半導体装置。」というマルチクレームについて、その引用している請求項3も「……ことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。」のように2つのうちどちらか選べる形式で引用するマルチクレームである場合には、2回以上選んで引用する形式が含まれるマルチマルチクレームとなり認められません

マルチマルチクレームの制限について(特許庁)

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明細書

明細書は、主に特許請求の範囲に記載された発明の内容を具体的にわかりやすく説明するための書面です。

明細書には【発明を実施するための形態】の見出しを設けて、特許請求の範囲に記載された発明をその技術分野の専門家が実施できる程度に明確かつ十分に記載します。
「実施できる」というのは、物の発明であれば物を作れて、使用できること、方法の発明であればその方法を使用できること、物を生産する方法の発明であればその方法で物を作れることです。

【発明を実施するための形態】では、基本的には各要素に符号を付した図面を参照して発明の内容をわかりやすく説明していきます。
特許請求の範囲のところで説明した発明特定事項に対応した説明を漏れのないように行います。発明特定事項の相互の関係が明らかになるように注意します。

1つの実施の形態だけではなく、できるだけ多くの実施の形態、変形例を記載することで、より使える権利になり、特許が取りやすくなる場合もあります。
例えば、特許請求の範囲に上位概念で記載した発明について、複数の実施の形態を用いてさまざまな種類の下位概念での発明の説明を行うとよいと思います。
特許を受けるのに有利な情報は基本的には積極的に記載していくのがよいと思いますが(あえて特許出願書類に記載して公開しないほうがいい情報もあります)、特許を受けようとする発明に関することであっても不必要なことを記載しすぎると発明のポイントがぼやけてしまうおそれがあります。

明細書の最初に書く【発明の名称】では、発明の内容を簡明に表示しますが、特許請求の範囲の中で用いた表現を使えばよいと思います。【技術分野】には特許を受けようとする発明の属する技術分野を記載します。

【背景技術】には、特許を受けようとする発明に関連する従来の技術を記載します。
先行技術調査で見つけた公報などに掲載された従来技術において、特許を受けようとする発明と関連性が高い部分などを記載します。
【先行技術文献】には【背景技術】で従来技術として記載した公報などの刊行物の名称を記載します(例えば【特許文献1】特開平○○―○○○○○○号公報)。複数の文献を記載することもあります。

【発明の概要】として【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【発明の効果】を記載します。
【背景技術】から【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【発明の効果】へと流れに矛盾がないように、特許を受けようとする発明の特徴が明確になるように、かつ、権利範囲が限定されないように工夫して記載する必要があります。

【発明が解決しようとする課題】には、【背景技術】に記載した従来技術の技術上の問題点を記載します。また続けて問題点に対応した発明の目的を例えば「本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、…を提供することを目的とする。」のような表現で記載します。
【課題を解決するための手段】には、課題を発明がどのように解決したかを記載します。具体的には発明の構成を記載しますが、基本的には特許請求の範囲に記載した表現を用います。
【発明の効果】には、特許請求の範囲に記載した発明が有する従来の技術と比較して有利な効果を記載します。

【図面の簡単な説明】では、添付した各図面について、発明を実施するための形態などで何を表し、どのような種類(例えば平面図,断面図,ブロック図,フローチャート…)の図面なのかを簡単に行を改めて説明します。

【符号の説明】では、図面に記載した符号がどの要素に付せられたのかを簡単に記載します(例えば「1 画像形成装置本体」など)。主に特許請求の範囲の記載に対応する要素の符号について記載します。

様式については明細書の作成方法(特許庁、PDF)をご参照ください。

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図面

図面は明細書の発明を実施するための形態などで発明の説明をわかりやすくするために補助的に用いられます。
補助的な役割とはいえ、図面は発明の説明に欠かせないことがほとんどであって、一部の技術分野の発明を除いて基本的には添付される書面です。
例えば機械関連の発明では図面は必須の書面です。ちなみに機械関連発明などでは斜視図を用いると発明全体がよりわかりやすくなることが多いです。

図面には原則的に特許請求の範囲のところで説明した発明特定事項について漏れなく表すようにしたほうがよいです。

図面には、描いた各要素から引出線を引くなどしてその先に符号を付します。同じ要素には同じ符号を付すように、特に複数の図面で同じ要素を描く場合に異なった符号を付さないように注意します。

特に発明者ご自身で特許出願書類を作成される場合には、発明を図面に具体的に表現することによって、発明のポイントが明確になったり、明細書などに記載する内容について整理されたり、漏れがなくなったりするなどよい面があると思います。

様式については図面の作成方法(特許庁、PDF)をご参照ください。

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要約書

要約書は、公開特許公報などに掲載され、調査などの際に発明の概要を把握しやすくするための技術情報としてのみ用いられます。したがいまして、他の特許出願書類とは役割が少し異なります。
要約書の記載は、特許発明の権利範囲を定めるのに考慮してはならないという決まりがあります(特許法第70条第3項)。

要約書は、【課題】,【解決手段】などに項分けして発明の概要を200~400字で平易で簡潔に説明した【要約】と、
【要約】の説明とともに発明の特徴をもっともよく表すことができる1つの図面を選択し、その図番を記載した【選択図】とから構成されます。
なお、選択する図面がない場合には【選択図】に「なし」と記載します。

【課題】には、従来技術の問題点を記載するのではなく、従来技術には問題点があったけど特許を受けようとする発明ではどのようにしたいのか、達成すべき課題を記載します。

【解決手段】には、発明を実施するための形態に沿って選択図を参照しながら発明の特徴部分を具体的に説明します。この解決手段では、選択図で付されている符号のみ使用します。

様式については要約書の作成方法(特許庁、PDF)をご参照ください。

上述した各特許出願書類にどのような内容を記載するべきか理解するためには、書類提出後の手続の流れを把握することが重要です。特許出願の流れのページをご参照ください。

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特許申請書類のひな型、テンプレートのダウンロードを紹介

明細書、特許請求の範囲等の特許申請書類のひな型、テンプレートは、
特許申請書類の作成-ひな型(特許願・実用新案登録願用)(電子出願ソフトサポートサイト(特許庁))
からダウンロードが可能です。

保存したHTMLファイルをWordなどを指定して開くと、特許申請書類を作成するためのファイルを得ることができます。
なお、このひな型に記載されている内容はあくまで一つの参考例であると考えていただいて(記載の仕方など真似しないほうがよいところがいくつかあると思います。)、先行技術調査で見つけた公報などもあわせて参考にされるのがよいです。

正直なところ、利用したことがないので積極的におすすめはできませんが、特許願(願書)については、さくっと書類作成(電子出願ソフトサポートサイト(特許庁))を利用した作成が可能なようです。

基本的には、特許願は、先にリンクして紹介した特許庁の「願書の作成方法」や「特許出願の願書作成時の留意点」を参考にしながら、Wordなどのワープロソフトで正確に丁寧に作成されるのがよいです。

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