出願審査請求とは?

特許出願の審査請求率の推移を表したグラフ

特許出願の出願審査請求とはどのような目的の手続なのか、いつまでに行わなければならない手続なのか、また、どのくらいの割合で出願審査請求が行われるのか、どのタイミングで行われるのかについて説明しています。

このページの目次です。

特許出願の出願審査請求とは?

特許出願の出願審査請求とは、特許庁の審査官に出願した発明の特許性などを判断させて特許を認めてもいいかどうかの審査を行わせるための手続です。

特許出願をすれば、発明の特許性をすべて審査してもらえるというか、そもそもそういう手続を特許出願っていうんだろうと初心者の方が思われるのはある意味自然であるような気がします。

実際に昔は(昭和46年より前)、日本でも特許出願手続さえ行われれば、特許性を判断して特許権を付与するかどうかの審査が行われていました。

しかし、出願した後にやっぱり特許を取れる内容の発明じゃなかったよなとか、特許取ってもしょうがないな、使い道ないなとか思ってしまうような出願や、自分たちはほんとうは権利化するつもりはないけどライバル会社が出願して特許権を取っちゃうと嫌だからとりあえずという理由の出願なども現実的にはそれなりの数存在します。

そういった理由で、出願人に出願してから3年間、特許権利化する必要がほんとうにあるかどうかを決める猶予期間を与えて、権利化が必要だと決心したら猶予期間内の好きなタイミングで審査を請求させる出願審査請求制度が採用されています。
特許庁側の立場からすると、全部の特許出願を審査しなくてよくなりますので、審査にかかる期間が短縮されます。

出願審査請求の期限

出願審査請求手続は、特許出願した日から3年以内という期限が決められています。

7年であった審査請求期間が平成13年10月1日以降の出願から3年に短縮されました。
20年ぐらい前とはいえ審査請求期間が7年だった時代があったことをおもいだせば、状況によっては期限ぎりぎりまで審査請求手続するのを待つのも少し楽になるのではないでしょうか。

  • 国内優先権を主張した出願の場合には、国内優先権主張をした後の出願日から3年
  • パリ条約優先権を主張した出願の場合は、第二国の日本への出願日から3年
    が審査請求期間になります。
  • 分割による新たな特許出願、実用新案に基づく特許出願などは、元の出願日から3年を経過していても、新たな出願日から30日以内に審査請求することができます。

なお、特許庁に支払う出願審査請求料は、138,000円+(請求項の数×4,000円)(2019年4月1日以降の特許出願)です。
中小企業等はこの審査請求料について軽減措置を受けることが可能です。軽減措置については特許出願の費用・料金に関する減免をご参照ください。

審査請求手続で提出する出願審査請求書の書き方については、出願審査請求書の作成方法(特許庁)(pdf)をご参照ください。
審査請求料の減免申請をする場合の審査請求書の記載例は、出願審査請求料の減免申請(単独出願の場合)(特許庁)などで確認することができます。

審査請求期間内に出願審査請求しないと特許出願は取り下げたものとみなされる

出願審査請求を3年間の審査請求期間内にしないとどうなるかというと、特許出願は取り下げたものとみなされます。

取り下げられたものとみなされてしまうと、せっかく出願したのにすべてが徒労に終わってしまったかのように思われるかもしれませんが、出願日から1年6か月後に出願の内容が公開された(出願公開された)事実は取り消しになりません。

したがって、例えば出願公開後に他社が類似した技術で特許出願をした場合には、その出願の進歩性、新規性を否定する先行技術として審査請求しなかった特許出願が役に立つ可能性があります。
また、出願公開前に、出願当初の明細書、特許請求の範囲、図面に記載した発明と同じ発明について他社が特許出願を後からした場合にも、審査請求しなかった出願には出願公開後に「拡大された先願の地位」というものが与えられ、その他社の特許出願を拒絶することができます。

出願審査請求手続自体は取り下げることができない

出願審査請求の手続は、請求するタイミングを間違えた場合などに取り下げることはできません。

審査請求手続の取り下げを認めて再度請求できるとすると、審査が無駄になってしまったり、審査がややこしくなってしまうためです。
審査請求はしてみたけど、審査をしてもらいたくなくなった、審査されると困る事情ができたなどの場合には、出願審査請求手続ではなく特許出願を取り下げればよいです。
この場合などには、次に説明する支払った審査請求料を半額返してもらえる制度の利用を検討すべきです。

審査請求料返還制度

出願審査請求手続を行った後、権利化する必要がなくなった場合には、審査が進んで拒絶理由が通知される前、特許査定謄本が送達される前などであれば、特許庁に「出願取下書」又は「出願放棄書」を提出することにより、審査請求料の半額の返還請求が可能になる制度があります。
出願を取り下げまたは放棄した日から6か月以内に出願審査請求手数料返還請求書を提出する必要があります。出願取下書等と同時に返還請求書を提出することが可能です。
なお、国内優先権を主張してみなし取り下げになるもとの出願についても審査請求していた場合には返還請求が可能です。
審査請求料返還制度について(特許庁)

第三者でも審査請求手続を行える

出願審査請求は、出願人以外の第三者でも(何人も)行うことができます。

出願公開されると、出願人には補償金請求権という権利が与えられますので、第三者の立場からすると、出願公開された発明を実施したい場合に特許権利化されるか早めにはっきりさせたいこともあるだろうという理由などによるものです。

出願審査請求のタイミング、請求率は?

出願審査請求を行う場合に出願日から3年内のどのタイミングで行われているのか、審査請求が行われないこともあるが請求率はどの程度なのか説明します。

出願審査請求のタイミング

出願審査請求手続をするタイミングは、2019年の特許出願の例を示すと、出願年に手続をするのが22.5%、1年目にするのが10.9%、2年目が16.9%、3年目が24.5%の割合になっています。

出願審査請求のタイミングについて各年毎の割合を表したグラフ

日本では審査請求するかどうかの決定は、どちらかというとじっくりと慎重に行う傾向があるようです。

中小企業の特許出願では、すでに特許権で保護を目指す製品などが完成する目処が立ち、販売予定時期もある程度決まった後に、出願手続の準備を始められる場合が多いので、早期権利化のために早いタイミングで出願審査請求手続が行われることが多いです。
中小企業の出願では、早期審査の請求が認められやすいために、特許出願と同時に出願審査請求、早期審査の請求がされる場合も少なくないです。早期権利化が実現すれば特許権の存続期間が通常より長くなるというメリットもあります。

ただし、出願審査請求はどのような状況であっても早いタイミングで行えばよいという手続では決してありません。むしろ基本的には、特許権を取得できる可能性を高め、実効的な特許権による保護を目指すために、審査請求するタイミングは慎重に考えられたほうがよいです。

特許出願した後に発明に改良点、漏れなどがみつかることがよくあります。
そのような場合には出願日から1年以内であれば国内優先権という権利を主張して出願し直すことが可能です。
補正は最初に特許出願の明細書などに記載した事項の範囲内のみでしか認められず新たな事項を追加することはできませんが、国内優先権を主張すれば、もともと先の出願に記載してあった発明は先の出願時に出願されたものとみなされた上で、新たな改良点などを追加することが可能です。

もし早いタイミングで出願審査請求をして早期権利化をしてしまうと、出願日から1年以内であっても国内優先権の主張はできなくなります。
国内優先権を主張せずに新たな改良点を含めた発明について新たに特許出願をしても、先に早期権利化した自分の特許を基にして拒絶されてしまう可能性があります。

早いタイミングで出願審査請求をした場合であっても、出願日から1年以内で、特許を認める特許査定など審査の結果が確定する前であれば、国内優先権主張は可能ですが、国内優先権主張出願について再度比較的高額な費用を支払う出願審査請求手続を行う必要が生じます。
ただこの場合、最初の出願は取り下げたものとみなされますので、拒絶理由が通知される前などの要件を満たせば、費用の半額返還請求が可能になります。また国内優先権主張出願の審査請求期間は、優先権主張の日から3年になりますので期限が延びることになります。

また、出願した後に、類似・関連する発明について先にされた他社の出願が公開された場合には、その他社の出願の明細書などに記載された発明を避けて特許権の保護を求めないと、出願が拒絶されてしまいます。
出願日から1年以内であれば、拒絶理由を回避するために補正のみならず、補正よりも広範囲に修正などができる国内優先権主張が可能です。

また、出願した後1年以内にライバル会社の競合製品の内容を知ることができた場合には、その競合製品にうまく対応できるように国内優先権を主張した出願を行うことも考えられます。

上述したような理由で、もし状況が許すようであれば、国内優先権を主張できる出願日から1年ぐらいは出願審査請求を待ったほうがよいと思います。
残念ながら2017年の特許出願のデータからは国内優先権主張の可能性を意識して出願審査請求のタイミングを決めている傾向は読み取れないです。

例えば特許性に不安があるなどの理由で、審査の結果、拒絶理由が通知されたり、拒絶査定されたときの対応策の一つとして国内優先権主張の利用を考えて特許出願するような場合には、むしろ早いタイミングで出願審査請求、早期審査請求したほうがよいですし、状況に応じて臨機応変に出願審査請求のタイミングを決定する必要があります。

出願日から1年を経過すると、国内優先権の主張はできなくなりますが、出願当初の明細書などに記載した事項の範囲内で補正が可能です。
自社の発明について修正する必要が生じた場合には、新たな事項を追加せずに補正できるかどうか検討します。
類似・関連する発明について先にされた他社の出願を調査して拒絶理由を避けるように補正し、類似・関連する発明について後からされた他社の出願についても調査して必要があれば補正し、また、新たに他社の競合製品の内容を知ることができた場合には、うまく対応できるように補正することを検討されるとよいです。
特に他社との競争が激しい技術の特許出願では、権利化を急がずに他社の出願、製品などをよくチェックして必要な場合には補正をして出願審査請求されたほうがよい場合が多いです。また、費用面で余裕があれば審査の状況などに応じて特許出願の分割なども活用して自社製品の特許による保護を強化していきます。

審査請求率

上述したように、特許出願した後に、例えば発明に経済的な価値や技術的な価値がないと判明し、権利化する必要がなくなった場合などには、出願審査請求手続を行わない判断をすることになります。

特許出願手続をするだけであれば特許庁に支払う料金は14,000円であるのに対して、審査請求手続にかかる料金は通常は最低でも142,000円であり10倍以上の額となりますので、無理に経済的な負担を負って審査請求手続を行う必要はありません。

2019年にされた特許申請について、最終的に審査請求がされた割合(出願審査請求率)は、上のグラフに示したように、前年より1.4%増えて74.7%です(2023年に判明)。

最終的な出願審査請求率は、2004年以降は不況の影響を受けるなどの理由で低下する傾向があったのですが、2008年にされた特許申請から65.8%と盛り返しました。
2011年の8月に出願審査請求料が引き下げられたことが少し影響しているかもしれません。
それ以降最終審査請求率は上昇しています。特許出願は件数より質が重視されるようになったことなどが理由として考えられます。

中小ベンチャー企業,小規模企業の特許申請では、所定の要件を満たせば審査請求料が軽減される措置を受けられるようになりましたので、最終審査請求率は全体と比べると高めなのではないでしょうか。

参考資料:特許行政年次報告書2023年版 第2部 詳細な統計情報 第2章 主要統計 2.特許出願における審査請求等の推移(特許庁)(PDF628KB)

出願審査請求についてのまとめです。

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